最初のページに戻る

ボクらの滑り跡 No.3  

   秋 号 
 (21−24話 対談)

−すべてそうさくしたおはなしです−

No.1 創刊号(1〜10話 11〜20話 21〜30話 31〜60話  61〜66話) 
No.2 夏号 休み特集号(No.2)
No.3 秋号(1〜10話 11〜20話 21〜24話
No.4 歳末特集号(1〜10話
No.5 冬号(1〜10話
No.6 夏号(1〜15話

No.7 続1(1〜12話
No.8 続2(1〜7話

No.9 続3(1〜8話



(ちゃぺる 3−21)  改めて   10月21日(火)


「おーい、来てくれ」と、風呂場から妻を呼びました。

妻は、血を見ても平気です。

顎から胸にかけて血まみれの私を見て、

「考え事でもしてたの?」

湯船で髭を剃るのが数少ない私の楽しみの一つです。
髭を剃ると言いましても顎鬚を整える程度に剃刀を当てるのですが、
ぼうっとしていて、ジレットを横に滑らせたようです。

痛みも無く、切り口も深くなかったのですが、驚くほどの血が出ました。

今朝、無理にバンドエイドを剥して、ワイシャツを真っ赤に染めてしまいました。

もう一度、妻に手当てをしてもらいました。
「静かにしてないと、血が止まらないよ」

身の回りのことは、たいてい何でも自分でしてしまう私を、
妻は、快く思わない時もあることを知っていました。

改めて、妻の私への思いを知りました。





(歌謡学院 3−21) パピプペポ   10月21日(火)


「舌」、「べろ」のことやけど、この舌の下に(シタノシタ、上手い!)、
紐みたいな部分あるやろ。

「ゼッショウタイ」ちゅうらいしいねんけどな。
これをちょっと切るとな、英語がペラペラに喋れるちゅうて、
子供に手術しよる教育ママがおるねんて。

何考えとるねん!

痛みが一週間ぐらいで、一万円そこそこの手術代らしい。

『ふっふるるる』

オール阪神の「ハト胸」や。ボクも上手いで。

なんせ、神学校の野木先生からヘブル語習うた時、
その辺の音の出し方、ていねいに教えてもろうたからね。

べろ切ってまで、英語ペラペラやらんでもええのや。

ボクなんか、地獄行く前に、ヨメに嘘言う舌切られてんねんで。
そやから、いっつもヨメの前でたら、舌もつれてもうて。

パピプペパピプペ パピプペポや。





(ちゃぺる 3−22) 天に至る   10月22日(水)


午前十時、曇り空が雨になった。

本を読みながらケーキを焼く一日と決めた。

養鶏場から卵を分けてもらっての帰り道。
農家の庇の下に競輪選手が雨宿りをしている。

ツール・ド・フランスの中継画面から飛び出してきたような出立ちであるが、
あの独特な形をしたヘルメットの間から白い物が垣間見える。

七十歳ぐらいの男性であった。

つい先日も山道を車で走っていたら、ずいぶん小柄な競輪選手に追い抜かれた。

二十歳ぐらいの女性であった。

雨宿りの男性に、農家の婦人が話し掛けている。

「どこから来て、どこへ行くのか」

ストレート・アンド・ナロー・ウエイ
天に至る狭き門への道を尋ねているようだ。





(歌謡学院 3−22) 寮母さん   10月22日(水)


教会の近くにな、名前聞いたら、
ああ、そうかちゅう会社の下宿あるねん。
社員寮ちゅかな。

若い男の子ばっかり住んどるねん。
やんちゃな奴ばっかりやで、そらもう、ホンマ。

そこにな、矢野タツコちゅう名前の寮母さんおるねん。

「ワシャ、遠賀川の水で産湯浸かりました。
玄界灘の荒海が、ゆりかごじゃった。
あんたらの面倒は、きっちりみまっしょ」
この寮母さんに睨まれたら百年目や。

「あんたら、なんしょっとね。今、何時や思うとるとね。
また、喧嘩して来よったとね。こんバーカモンらが!
故郷(くに)のお母しゃんに言いつけるとよ」

帰国子女の男の子、入社して来よった。

アメリカの彼女に手紙書いて、
寮の玄関の寮母室の前のポストに入れときよった。

「あんた、なんね。しぇからしか。
なんぼアメリカから帰ってきたからちゅうて、
英語で書いたら、何書いとるか分からんとよ。
気ぃ付けんね」





(ちゃぺる 3−23) 野垂れ死に  10月23日(木)


野垂れ死に  


柏山先輩が野垂れ死にしたと、風の便りに聞きました。

柏山さんは、先輩と申しましても神学校の同級生、
五十年配の人でした。

棟方志功のような風貌ですが、人間性は非常にネガティヴで、屈折していました。

誰彼なく議論を吹っかけては突っかかりました。
しかし、誰一人、柏山さんを相手にしませんでした。

独り者を通していましたが、湯も沸せませんでした。

四国の大きな教会を訪問する機会がありました。

柏山さんが寝起きしていた教会の一室を見せられました。
山のようなゴミを残して、忽然と消えてしまったとのこと。

なぜか、私が片付けることになりました。

最後に拭き掃除をして、片付けると少しは広いと感じる部屋の真ん中に、
大の字になって天井を見ました。

柏山さんは、故郷への道中、力尽き、
道路上に大の字になって、行き倒れたそうです。





(歌謡学院 3−23) 管理人さん  10月23日(木)


教会の近くにな、名前聞いたら、
ああ、そうかちゅう化粧品会社の女子社員寮あるねん。

そこにな、ボクと同じ名前のキシモトちゅう管理人さんがいたはるねん。

中国語会話の中に出てきた「ターイエ」、
学生が「おじさん」と呼んどった寮の管理人役の役者さんによう似とるねん。

化粧品会社の社長さんとは、古うからの友達らしい。
気取った人やけど、昔、遊び人やったから、女の子の扱い上手や。

ある日な、寮の女の子が風邪ひいて寝込みよった。
その娘あんまり素行良うないねんけど、
そんな娘ほど管理人さん丁寧に対応しやはるんや。

ところが、この娘の父親がアホやねん。

何も知らんと娘にエエカッコしよう思うて、
寮と会社に娘の扱い悪いちゅて、怒鳴ってきよったらしい。

「アホンダラ、ボケ、カス! 
相手見て電話しさらせ、ワーレー」

社長の一言や。

そやけど、ガラ悪いな。そやけど、友達思いなんやろな。





(ちゃぺる 3−24) 検定中    10月24日(金)


運転免許試験場へ直行した。
大型二種免許を取るために。

若い頃修行した教会には大きな付属幼稚園があり、大型バスを三台も持っていた。
私は、得意になってバスを運転した。

しかし、大型免許はあったが、二種免許は持っていなかった。

観光バスの運転士になりたかった。
甘い考えだ。
久しぶりにバスを運転したが、難しくはなかった。
しかし、試験官がマイナスのチェックをしている気配を感じた。

完璧な運転のはずなのに。

コースの半分ぐらいの所で出発点に戻るよう指示された。

ダブルクラッチを踏んで、ギアを二段も落とし、
アクセルを床一杯踏み込んだ。
悪態も吐いた。

厳しい叱責が飛んだ。

「貴様! 不合格でも検定中だ!」





(歌謡学院3−24) 拍手喝采   10月24日(金)


秋祭りの季節やな。

たいした楽しみちゅうもんが無かった時代やったから、
普段さびしいJRの駅裏、昔、国鉄とか省線なんか言うとったけど、
天神さんの祭りは、人いっぱいや。

入り口あたりにな、傷痍軍人さんがいたはった。
鉄の義手でスチールギター弾いたはったわ。

人だかりのあるトコ通りかかったら、皮ジャンのおっちゃんに呼び止められた。

「ボク、そこのボクやがな。皆さんにエエとこ見せてや」

頭で瓦を割るらしい。ボクがやで。

おっちゃんがレクチャーしよる。めちゃくちゃ不安や。
瓦を当てるところと、コツを教えよる。

瓦を両手で持って、おっちゃんが、ちょっと手ぇそえて、
「エイ!」ちゅうたら真っ二つ。拍手喝采や。

『不思議な力が湧いて来る本』、あっという間に売り切れた。

その本、どっか遣ってもうたわ。
惜しいことした。その本あったら、ヨメに、、、



―マドロス出版の小汚い編集室にて―


キシモト 「あひる」に出てくるCH先生な

リュー  あの先生は、サイコーやね
      イギリス人? チャールズ・ヘンダーソンとか
     
キシモト 架空の人と言いたいところやけど、
      ボクが最初に出会った牧師らしい牧師さんや
     
リュー  ほんまに、あんな感じのセンセなん?

キシモト いや、本物は、もっとスゴイねん
      もちろん、イギリス人なんかとちゃうで

リュー  なんちゅうか、CH先生は、「我想う故に我あり」
      そのものちゅう感じやね

キシモト センセには、本のこと内緒にしてたんやけど、
      センセに御注進ちゅう人おってな、バレてもうた

リュー  自分がどんな風に書かれてるか知ったはるやろな

キシモト その通りや
      ほんまは、T先生ちゅうねんけど、
      この先生の著書な、積み上げたら富士山の高さやで

リュー  元祖、『ヌメリ』ちゅうことか

キシモト 及びもつかんわ、ボクら



−すべてそうさくしたおはなしです−

No.1 創刊号(1〜10話 11〜20話 21〜30話 31〜60話  61〜66話) 
No.2 夏号 休み特集号(No.2)
No.3 秋号(1〜10話 11〜20話 21〜24話
No.4 歳末特集号(1〜10話
No.5 冬号(1〜10話
No.6 夏号(1〜15話

No.7 続1(1〜12話
No.8 続2(1〜7話

No.9 続3(1〜8話

  最初のページに戻る