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ボクらの滑り跡 No.3
−すべてそうさくしたおはなしです−
No.1 創刊号(1〜10話 11〜20話 21〜30話 31〜60話 61〜66話)
No.2 夏号 休み特集号(No.2)
No.3 秋号(1〜10話 11〜20話 21〜24話)
No.4 歳末特集号(1〜10話)
No.5 冬号(1〜10話)
No.6 夏号(1〜15話)
No.7 続1(1〜12話)
No.8 続2(1〜7話)
No.9 続3(1〜8話)
夫を小突き回す妻たちと小突き回される夫たち(ヘンペク)に捧ぐ
凡て労する者、重荷を負う者、われに来たれ、
われ汝らを休ません マタイ伝 11章28節
あとがき
この創作日記は、キシモト牧師とその友人のデスク・リューノスケが、
余りの退屈の日々の徒然に、眉間に残る天下御免の向こう傷の疼きに
快を覚えた日々を追憶しつつ、ナメクジの這った滑り跡を追いかけるように、
「ボクら」のジンセイを精査したカキモノである。
ボクらには、ほんの少しのお湿りが嬉しい。
このご時世のあまりの乾燥が悲しい。
「オタクもそう思わはりまっしゃろ」
印象派が好きなのだ。
牧師の話は、「ちゃぺる」に、キシモト歌謡学院のネタは、
「歌謡学院」にと書き分けてみた。境界線が明確ではないが。
1−10話
(ちゃぺる 3−1) 前・タッチ 9月1日
前後の「前」に「田」を続けて、「マエダ」とは読まず、
「マエタ」と読む名前の青年が教会にいる
何時もスマシ顔で、ちょっと気取っている。
おまけに、若年寄のような風貌に物の言い様。
若い女性の教会員は、彼のことを、彼のいないところで
「マエタッチ」と渾名して呼んでいる。
その響きは、「前・タッチ」である。
何かやらかしそうなその青年の心の動きを上手く表現できているようで可笑しくて仕方がない。
ある日、マエタ君が、幼児室の遊具に躓いて、
マリア像の「前の部分」にしがみつくという出来事があった。
居合わせた女の子たちが・・・
顔を顰めた。
最近、縦横の「横」に続けて「田」、
ヨコタ君という名の青年が教会に来るようになった。
彼は、憚り無く、「ヨコタッチ」と呼ばれている。
「横・タッチ」事件はまだ起こっていない。
(歌謡学院 3−1) イカソーメン 9月1日
「あんた、イカ、買うてきたわ。
剣先のイカやねん。料理してな」
イカの刺身、好きやねん。うちのヨメも娘も。
夏は水道の水、ぬるいから、てきぱき掃除して、
さっと、氷水に浸してから、水気を取って、
祖父、「キシモト政之丞」の忘れ形見の刺身包丁で、
角のツンッとした一流料亭の仕上げにも及ばへんイカソーメンを作った。
「けん」には、大根やと色が同じやから、庭のバジルをほんの少々添えた。
ジョートーな「造り」や。
娘らは、普通に、ソーメンの部分から食べよる。
問題は、ヨメや。
捨てるんもったいないから、ゲソもミミも盛り付けとくねんけど、
ヨメは、ゲソ、それも、あの十本ある足の中の一番長い二本が好きやねん。
あれ、いかにもガメツそうな感じ。
「おまえが、それ、楽しそうに食うとると、
三益愛子が、小銭の入った壺抱えてるように見えるワ」
ボクは、もちろん、人のことを良く聞くボクはや、
イカの「ミミ」、頂きましたで。
(ちゃぺる 3−2) 管弦楽クラブ 9月4日
五軒に一軒ぐらいの割で、町内の家に電話があったと思う。
無理をして親が電話を引いた。
通っていた高校の名簿は、これで全員の住所、電話番号が揃った。
質屋で買った明治の演歌師が持つようなバイオリンを下げて、
市民会館の管弦楽クラブへ通った。
某国立大の大学院生が、バイオリンのイロハを教えてくれた。
もちろん、無料である。
ハイソでインテリな気分を楽しんだ。
簡単な曲が弾けるようになると、弦楽四重奏のアンサンブルを楽しませてくれた。
管弦楽クラブの名簿に、誇らしく、住所に続けて電話番号を記入した。
その夜、かなり遅く、バイオリンの先生、つまり大学院生が、私の家に電話をしてきた。
二軒先の同級生の女の子を呼び出して欲しいとのこと。
パジャマ姿の彼女を、父母の寝ているところを通って電話機の前へ案内した。
一方的な告白だった。
彼女の困惑した顔が忘れられない。
(歌謡学院 3−2) アクアリウム 9月2日(火)
水草の酸素で小さいサカナ飼う、アクアリウムとか言う、
観賞魚の盆栽みたいな趣味があるねん。
NHKの12チャンネルでやっとる。
ちょっと趣のある先生の助手が、ボクの好きな桂雀々や。
よう見ると雀々が、ポロシャツのボタン、上まで全部かけとるの見てヨメが、
「けったいや。なんでボタン上までかけるんかな?」
「そんなことも、ワカランのか、おまえは」と、ボク。
「雀々はやな、このトボケた先生に、食われまいと必死なんや。
よう見てみ。マジメなんや、ボクとおんなじやろ。
なに、 まだワカランってか。落語の与太郎やないか。
与太郎のイメージは、天才バカボンとおんなじでやな、
帯をグッと上のほうで結ぶやろ。アレ、アレ」
「はぁはぁ、なるほど」と、ボクを馬鹿にして、
イナカのばあさんみたいな返事しよる。
今日はマジメな話、せにゃならん、そんな日や。
背広初めて着たヒトみたいな雰囲気で、白いワイシャツにノーネクタイ。
上のボタンしっかり掛けるちゅう『着こなし』もあるで。
ヒトに言うたらあかんヨ。
(ちゃぺる 3−3) レオ先生 9月5日
ファイナンシャル
その風貌が森本レオに似ているので、
レオ先生と勝手に、私だけが渾名している先輩の牧師さんがおられます。
上のお名前は、草刈です。
この草刈レオ先生は、そのご性格が、一言で言って、
感激孤児です。いろんな所へ出かけられては、
必ず改革の必要性を発見され・・・
「このままじゃ、イカンのですよ。
変わらんことにゃ、イカンのですよ」
あっと言う間に、いくつものプロジェクトを立ち上げてしまわれます。
沢山の人たちが、取り残されます。
ソフトな物の言い様が、森本レオそっくりなので、妙に説得性があるのです。
それに、行き詰まることがあったとしても、言葉の置き換えが実に巧みなのです。
あるプロジェクトが金銭面、つまり、経済的に成り立たなくなりました。
レオ先生が、甘くとろけるような声で、
「ファイナンシャルな問題が発生いたしました」
一同、「ナ・ル・ホ・ド」
(歌謡学院 3−3) 磯 笛 9月3日
ボクな、火星人の真似とかうまいねん。
火星人の乗り物、あのUFOの真似もうまいねんで。
めちゃくちゃストレスある仕事した日の晩なんか、
なかなか寝られへんことあるやろ。
なんせ、繊細やからね、シンケイが。
海女さんの「磯笛」って、知ってる?
海の底から上がって来た時、「ぴゅー」ちゅうて、
口笛吹くみたいな息するやろ、アレや。
寝苦し夜なんかあるやん。なんでかそんな時な、海女さんが海の中で長いこと息止めとるのが思い浮か
ぶんや。
そやから、ボクも、寝床で『磯笛』吹くねん。
「ぴゅー」を、だんだんクレッシェンドにしながら、
空気を口の中で回転させるねん。そしたらな・・・
UFOが降りて来る音や。
「キ・シ・モ・ト・ア・ン・タ・ハ・エ・ラ・イ」
人差し指をな、唇に持っていって上下させながら
火星人に慰めてもらうんや。
「あんた、あほなことしてんと、早よ、寝っ!」
横のアンドロメダ星人に怒鳴られた。
(ちゃぺる 3−4) とうとう 9月8日
説教の持ち時間の半分を超えたあたり、
教会玄関の砂利を激しく踏む音が聞こえました。
白いスーツ、白い靴下、白い手袋のご婦人が、
脇目も振らず講壇まで一直線に入って来ました。
二メートルぐらいの距離で、私をじっと見つめたかと思うと、
跪き、両手を胸の前に合わせました。
生き仏を拝むあのポーズです。
先輩の牧師からそういうシュチュエーションも間々あると聞いていたので、
驚きはしませんでしたが、
駆出しの私には少々の戸惑いを伴う出来事でした。
教会の近くで黒い魔術の集団が暗躍しているので私を助けに来たと、
必死の形相で訴えるのです。
厚くお礼を言ったら、その後、礼拝に来るようになり、
だんだん普通の信者さんのように振舞うようになり、
それから、だんだん普通の人のようになり、
とうとう、教会に来ない普通の人になりました。
(歌謡学院 3−4) イエス・玉川 9月5日(金)
イエス・玉川
にっちょ(日曜)の昼や、ヨシモトの駐在さんもんでな、
『まるむし商店』の東村が、牧師の役しとった。
石田と花子の結婚を司式するちゅうチョイ出や。
「今晩のお二人のベッドインは、十時か?」ちゅうて、
首から下げた十字架をな、客席に向けよるねん。
それはまあそれで、エエねん。
東村は、あの程度やからね。
そやけど、あのコントで使う牧師っさんや神父の衣装、コスチューム、なんとかならんのかいな。
問題やな。十字架のワッペンに、出来損ないの黒のワンピースみたいなもん。
あんなカッコ、どこの教派もしてまへんで。
何処とは言えん、県名も言うたらすぐ分かるから言わんけど、
たんぼの真ん中にあるプレハブのチャペルの仕事回ってきたんや。
先輩がよう考えんと受けて、それをボクに振らはったみたいやねん。
ブライダルちゅうのか、貸衣装屋さんの多角経営の一環や。
着くなり、社長ちゅうか、おやっさんが、なんか持ってきよった。
「センセ、これ、お衣装でございます。
ご用意させて頂いております」
鏡に写った自分みて・・・
「わしゃ、イエス・玉川か」
(ちゃぺる 3−5) 疲れて 9月9日
葬儀が重なって大変疲れていました。
疲れの酷い時、私が真っ先に注意するのは、『口』です。
疲れていると、精神の筋肉が弛緩して「こころに有ること」を
制約無く放り投げてしまうからです。
後で取り返しのつかない事態を引き起こしかねません。
急な呼び出しがありました。夕方の五時頃でした。
「勘弁して欲しいな」と思いながらも駅の階段を
鉛の靴を履いたような足取りで昇りました。
勤め人や学生が降りてきます。
咥えタバコの高校生たちとすれ違いました。
「高校生がタバコ吸うたらアカンやないか」
マズイことを言ってしまいました。
これは揉めるなと、腹を決めました。
「失礼しました!」
高校生たちが謝罪しました。
なんだ、お前さんたちも「疲れて」いたのか。
そんな言葉、相当疲れていないと言えないからね。
(歌謡学院 3−5) 噛んでるヨ 9月8日(月)
「てぇい、喧しいやい。おう、この刺青(えれずみ)をよっく見な、
桜吹雪か遠山おろし、男命の金看板、汚れを知らぬ江戸っ子の直だに
誓った心意気、と言いてぇところだが、実ぁ、侍(さむれえ)の家(うち)
に生まれたばっかりに掟と義理の板ばさみ苦し紛れの逃げ口実に一旦汚した
この肌をまたまた包む紋服裃(もんぷく・かみしも)」
千恵蔵の金さんが切る胸のすくような啖呵や。
これどっかでやったろ。
月曜の晩は、ボクが勝手に決めたお稽古の日。
つまり自習ちゅうかひとり練習をする日なんや。
家のモン全員知らん顔。
ヨメはミシン踏んどる。
長女はパソコンで持ち帰りの仕事。
下の娘は眉描いとる。
「・・・・・苦し紛れの逃げ口実に、いったったっ、
たんたん、一旦、タンタンメンメンメン・・・」
知らん振りしとった三人、声そろえて、
「おとうさん!
噛んでるヨ!」
ナメとんか、お前ら。
(ちゃぺる 3−6) 間 人 9月10日
娘の一人が成人してからというもの、
家族で何処かへ出かけるということが少なくなりました。
一人暮らしをしている妻や私の母親の所に顔を見せに行く時ぐらいに
なってしまいました。
珍しく、高校生の娘が、何処でも良いから家族で出かけたいと言います。
だいたい、気紛れなお前の都合で何処へも行けないことが多い
と嫌味を言いたい所をグッと押えて、ハンドルを握りました。
湖西方面をまっしぐらに、『今津港』へ向かいました。
港のイメージからは余りにも程遠い小さな船着場でした。
港を見ただけで帰りました。
数日後、夏休みも終わりだからもう一度、何処かへ行きたいと言います。
日本海を目指しました。海を見ることはなく、
国道の分岐点にある大きなお土産屋で休憩してそのまま家に帰りました。
娘たちは、行きも帰りも後部席で寝ています。
休憩した土産物屋に日本海めぐりのイラストが大きく描かれていました。
あの船宿で有名な伊根に並んで、『間人』がありました。「たいざ」と読みます。
『間人』には行ったことはないけれど、「人間」を逆に書く町とはどんな所だろうと、
後ろ髪引かれる思いがしました。
(歌謡学院 3−6) ファースト 9月10日(水)
教会の庭にジャイアント・カボチャが二十個もできた。
種から育てたんやで、えらいやろ。
『ハロウイーン寄席』の準備を今からしてるんや。
外国暮らしの長い下宿人が多いから喜ばしたろ思うてね。
収穫した大きなカボチャをな、玄関に並べた。
いろとりどり、壮観なもんや。
「お願いがあるんにゃー」
猫オンナや。なんか言うて来よると思うとった。
「そのカボチャ、一つでいいんです。
学園祭に使いたいんで貸してもらえませんか?」
分かっとらん。
そんなことしたら、
せっかくのハロウイーンのカボチャが使いまわしになるちゅうこと。
そやけど、適当な断りのことば、見当たらへん。
カボチャの処女性みたいなことを言うたろ思うたけど、
若いオンナ用の上品なことばが出てきよらん。
「うーん。なんちゅうかな。
君らにとって、このカボチャが・・・・・
ファースト・カボチャやないとあかんちゅうことなんや」
(ちゃぺる 3−7) 茄子の色 9月11日
電車の中で、女子高生たちが興味深い話をしていた。
しゃっくりが出ている人に、「茄子の色は何色?」
と尋ねて「紫色」と答えれば、しゃっくりが止まる
と言うのである。
途中から話題に入った者が、「なぜ?」と訳を聞いたが、
理由はないらしい。
向かいの席にいた私は、知らぬ振りをしながら、
必死にその理由を探した。いくら考えても答がない。
「落ち」のある話ではないようだ。段々、苛立って来た。
苛立ちが頂点に達した時、女子高生たちは私の降りる前の駅で
全員降りてしまった。
一切の手掛かりを失ってしまった。
そのままブツブツ言いながら帰宅した。
妻が酷いしゃっくりをしていた。
「茄子の色は何色?
瀬川瑛子、長崎の夜は・・・」
「むっ、むっ、むらさき!」
(歌謡学院 3−7) フック船長 9月9日
マッちゃんこと、「まつ魚」の主人、
松本君ちゅう、ちょっとアブナイ後輩おるねん。
人相が、隠し撮りでマスコミ騒がせたあのTちゅう芸人に
よう似とるんやけど、本人の名誉のためにそれは言わんとく。
この男、学生時代、
アルバイトのキャラクターショウで全国行脚した経歴もっとるねんで。
一番の得意は、ピーターパンの「フック船長」や。
ある日のことや、商売モン扱う「手鉤」でな、
店の前通りかかった若い奥さんの買い物籠引っ掛けて、
「フッフッフッフッフッ・・・・・
奥さん、サカナ、サカナ、サカナ活きええよ」
ヨメはん慌てて店の奥から出て来よった思うたら、
マッちゃんの襟首に「手鉤」掛けて、引き倒しよった。
続けて拳骨を顎に一発見舞いよったがな。
ダウンしたマッちゃんの横で、蟹も一緒にアワ吹いとる。
ノック・フック・パンチちゅうことやね。
(ちゃぺる 3−8) ドーナッツ 年9月18日(木)
真夜中にぼんやり目が覚めた。
それはいつものことなのだが、
その日に限って異常な空腹を覚えた。
冷蔵庫に向かった。しかし、冷蔵庫を開けることは躊躇われた。
夜の九時以降は、朝食まで何も口にものを入れないようにしている
こともあるが、そんな時間に冷蔵庫の前にいる自分が許せなかった。
「夜は寝るもの、三昧でなければならない、就寝も行なり」
いつかラジオで聞いた禅の教えが脳裏を掠めた。
英語でも朝食、ブレックファストは「断食を破る」だ。
食卓にドーナツがあった。
ささいな妻との口喧嘩の果てに、
「ひとり」そこに取り残されていたドーナツだ。
小さな照明の下で、ドーナツを一齧りした。
情けない思いがした。
胃が悲鳴を上げ始めた。
(歌謡学院 3−8) サ ル 9月11日
下宿人がアメリカにいる親に送るもんあるちゅうて、
寿司折三つ分ぐらいの大きさの包み持ってきよった。
今日は一日中講義あって郵便局行く時間無いらしい。
船便以外で一番安い料金で送って欲しい言うとったんで、
これはSAL、郵便局で『サル』と呼んどるメニューやなと思うた。
近くの郵便局行って順番待っとった。
前の人終って、「どうぞ」と言いよったけど、係員、下向いて
書留の伝票まだ書いとる。そやから人相よう分からん。
よう分からんねんけど、妙に耳が出っ張ったように大きい。
「お前はエノケンか?」
急に他の用事、待ち合わせのある用事思い出した。
気持ちがせいてきた。
係員、急に顔上げよった。目と目が合うてな。ボク持ってた包み見せるなり、
「サルか?」と言うてしもうた。
「はい、ボク・・・サッ、サル、猿、です」
若いのに、よう出来たやっちゃ。
(ちゃぺる 3−9) チリ紙 9月19日
徹底的に教師から嫌われたことがある。
その男性教師は、不良であった。
気に入った女の子たちを教卓の周りにはべらせ、
朝から酒の匂いをさせていた。
女の子たちは、トイレに行く時、この先生からチリ紙を競って貰っていた。
流行りの言葉で言うところの『サイテー』である。
暴言はその極みに達していた。
「生活保護を受けとるもんは、給食費タダやったな」
「ビンボー人の子供がでしゃばるな」
冷ややかな眼でその教師を見たのであろう。
私は、地獄を見るような仕打ちを受けた。
この教師のボイコット運動が起こった。
しかしその時から、この人がなぜか好きになった。
妻ではない女性と歩いているところを目撃した。
先生がツイードのオーバーを着ていたことを覚えている。
誰にも言わなかった。
チリ紙を貰っている女の子たちと何も変わらない自分を
知った。
(歌謡学院 3−9) ビギン 9月19日
朝の早うから散歩しながら町内のゴミ拾うたはる年寄りおるねん。
手ぇにはな、いっつもゴミバサミ持ったはるねん。
このおじいさんだけやのうて、
ゴミバサミ持ったらたいていの人間ちゅうのは
なんでカチカチ音させたがるんやろ。
「・・・・・トツートツートツー・・・・・」
モールス信号や。それも和文モールスや。
「区切り点」の部分はっきり聞こえる。なんか言うとる。
「・・・キヨウモゲ ンキ ダ アリガ トウ・・・」
そんな感じや。
興味あったから話し掛けた。
「ワテな、むかしテイシンショウ言いましたけど、
郵便局つとめてましてん。
局内の連絡ちゅうたら有線のモールスどしたんやで。
オタクはんらには想像もつきまへんやろ」
カッチャカ チャッチャ カッチャチャ・・・・・
「それ意味取れませんねんけど、何て打たはりましたん?」
「これはやね、モールスやのうて、ビギンのリズムどすがな」
(ちゃぺる 3−10) ソノママ 9月22日(月)
「キシモトさん、まあ聞いて。
親子のサルがわたしを虐めるのよ」
地方で隣の教会と申しますと、だいたい車で一時間、六〇キロ位の距離です。
エンちゃんこと園藤先生の牧師館へよく遊びに行きます。
エンちゃんは、牧師館にいた例がありません。
神学校のギリシャ語の先生でしたが、引退後も大学で教えたり、
どこかの理事をしたりと非常に活動的な先生です。
このエンちゃん夫妻に、同居の『ママ』がおられます。
園藤先生のご母堂です。九二歳になられますが口八丁手八丁を絵に描いたような方です。
奔放な行動に教会員は辟易して、『そのふじのママ』を短くして、『ソノママ』と影で呼んでいます。
先生もママも、どちらもサル年です。つまり、サルの親子。
不用意に近づくと・・・
陽気なエンちゃんの奥様は、『敵もサル者、引っ掻く者』で落ちる話を幾つも用意して、
今日も首を長くして、牧師館の訪問者を待っています。
なかなか遣りますね。牧師館の住人たち。
無事に帰れるかな?
(歌謡学院 3−10) ピンカラの兄 9月22日
ラジオから「禁じられた遊び」流れてきた。ギターの名曲や。
この曲弾きたさにギター習うたニンゲン結構いたもんな。
宴会の余興でな、二人羽織やって、これ弾いて、ごっつ受けたことあるねん。
それにな、この曲弾きながら、「浪花節だよ人生は」も歌えるで。
ナルシソ・イエペスちゅう人が弾いとるんや。この名前の響きがええのう。
ついでやけど、「しゃぼん玉ホリデー」のエンディングで犬塚弘が街灯の下で
弾き真似しとったあのスター・ダストちゅう曲、あれも良かったやんか。
ロス・インディオス・タバハラスちゅう兄弟のデュオ演奏や。
このアーティストの名前の響きも何とも言えんのう。
クロード・チアリは、どやてか?
これは許そうか。まあ、とりあえず、ストライクゾーンや。
なに? ギター弾きで肝心なヒト忘れてませんかって?
そや、そや、そやがな。
♪ わたしが ささげた その人に
あなただけよと すがって 泣いた ♪
宮史郎の後ろで控えとったピンカラの兄、
宮五郎を忘れてませんかっちゅうてるねん。
−すべてそうさくしたおはなしです−
No.1 創刊号(1〜10話 11〜20話 21〜30話 31〜60話 61〜66話)
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No.9 続3(1〜8話)
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